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第31話 「お客様を迎えて」
名台詞 「呆れた。オーレリィも変わった子だって思ったけど、ファブリさんも相当おかしな人ねぇ。」
(ロザリー)
名台詞度
★★★
 ロザリー3連チャン。しかも前話と今話は「視聴者の思いを代弁」という役どころが同じ台詞である。てーか、今話でこの台詞を聞いてしまうと前話の名台詞を考え直したくなるが…。
 そう、池の小屋に勝手に住み着いて何でも自分で作ってしまうペリーヌ(オーレリィ)も変人だが、今話を見ているとファブリも変人と言わざるを得ない。散歩しながら本を読んでいるのは良いとしよう、しかし木に登って本を読んだから誰もが認める変人だ。それだけではない、木の上で本を読んでいる間に居眠りしただけならともかく、池に落ちただけならまだしも泳ぎ出すのだから、変人だろう。視聴者の誰もがそう思いファブリに指摘したくなるところを、ロザリーがまたもその役を果たしてくれるのだ。
 だが、この台詞ではファブリの変人ぶりを強調するのが目的ではない。ファブリとペリーヌが気が合いそうだという点をさりげなく示唆して視聴者に印象付けるのが狙いだ。すると勘の良い視聴者はある予想が出来るかも知れない、ペリーヌとファブリがペリーヌの正体やビルフランとの関係について「秘密」を共有する仲になる可能性があることが…。ここまでのファブリの登場の仕方をしていれば、ペリーヌにとって「単なる周囲の大人」とは違う役回りであることを想像するのは難しくないはずだ。パンダボワヌ工場の社員の中でも、ペリーヌのプライベートシーンにまで出てくるのは、今のところこのファブリだけ。つまり破格の待遇だからだ。

しかしお前ら、そこまで笑うか?
名場面 ロザリーとポール 名場面度
★★
 ペリーヌが勝手に自宅にした小屋での昼食にロザリーを招待する。それにロザリーが喜び「必ず行くわ」と返事をしペリーヌが立ち去ったところで、家の中からポールが飛び出してくる。「聞いちゃった聞いちゃった」と棒読みで語るポールに、「何を?」ととぼけるロザリー。「明日オーレリィのところへご馳走を食べに行くんだろう」…なんてまぁ地獄耳、いや核心を突いた台詞を吐く。「え?」と言って最初はポールを無視するように店の掃除を続けるロザリーであったが、ポールはロザリーの前に回り込んで「俺も行くよ」と言い切る。「お前はよく行ってるじゃん」と言うロザリーに「ご馳走になったことはないよ」と応戦するポール。ロザリーは「あんな小屋にいて本当にご馳走が作れると思うの?」と問う。「だってオーレリィは…」と言いかけたポールに、「バカねぇ、オーレリィは冗談で言ったのよ。私に遊びに来いってことなの」とロザリーは自分が解釈した通りを語る。「なんでスプーンとフォークを持って来いなんて言うんだよ?」とさらにポールが問い詰めると、「食いしん坊ね」と突っぱねる。「俺も行くよ」「ダメ、お前は招待を受けてないから」「姉ちゃん、連れて言ってくれよ…」「ダメッ」…最後のロザリーの声は絶叫だ。
 このシーンの見どころはロザリーとポールの言い合いではない、ロザリーがオーレリィ(ペリーヌ)からの招待について、自分が解釈した通りのことを語ることだ。同時にペリーヌの生活を目の当たりにしたポールと、そうでないロザリーの違いというのが浮き彫りになっている。
 「あんな小屋で本当にご馳走が作れるの?」「バカねぇ、オーレリィは冗談で言ったのよ。私に遊びに来いってことなの」というのがロザリーの解釈である。つまりロザリーはいくら親友の言うこととはいえ、あの小屋の装備ではとても料理が作れないという現実的な判断を下し、とくにかく「昼食」については期待せずに「遊びに行く」という解釈を取っているのだ。
 だがこれに応戦するポールは違う。彼はペリーヌの悪戦苦闘をちゃんと見てきたのだ。前話では「ペリーヌが靴を自作した」のを唯一目撃しているし、今話でもペリーヌが魚を釣るのに四苦八苦している様子を見ている。劇中には描かれていないが手製の鍋の製作過程や、火を起こして魚を焼くところも見ていることだろう。だから彼は親友である姉が「食事に招待」されたことについて、その通りのことが起きると信じて疑わない。
 もちろん、視聴者からみればポールの言い分が正しいだろう。ポール以上にペリーヌの悪戦苦闘を見せられているのだから。だがペリーヌの悪戦苦闘が劇中に全く描かれなかったら…「ロザリーの言う通り」と感じる事だろう。
 姉弟の言い合いを通じて、こんな二人の「立場の違い」が見えてくるのがこのシーンのポイントなのだ。
  
今回の
迷犬バロン
 
 ポールが「おいで」というから行ってみたら、眼前に蛙を突き出されたバロン。とくにビックリした風でもなかったがポールは得意げに「バカだなぁ」って…ちょっと違うだろ?
気まぐれ度
感想  今話も前話に引き続き、ペリーヌが小屋での生活を軌道に乗せるまでの過程が描かれる。だが前回との大きな違いは、明確な「壁」を描いてそれを乗り越えさせるという物語ではなく、「普通に生活するために必要な物」を揃えさせることにある。鍋、食器、食べ物…そして後半では、ロザリーを招待するという物語を通じてペリーヌの生活が軌道に乗ったことを描き、マロクールでの物語の本編に入る準備が出来たことが示される。
 その前段として、今話冒頭では早速「本編」の入り口への伏線が張られる。それは「シャモニー」店内でのファブリとベンディットの会話だ。そこでは彼らの勤め先であるパンダボアヌ工場の管理部門では、英語が出来る人材が不足していることが語られるのである。物語はフランスでのことだから人々はフランス語で会話しているはず、だがここではペリーヌが英語を使えるという設定はハッキリしていない。旅の途中で彼女らが「英語の書類」を持ち歩いていたことで、英語ができる可能性が示唆されただけだ。だがその「事実」が物語と無関係に語られるはずはないことは、誰の目にも明らかなはずだ。
 そしてファブリの印象を強くするのもこの物語の役割の1つである。ここまでは単にペリーヌやロザリーの知り合いという要素だけだったが、まずファブリがペリーヌの生活の実態を知ることになる。そうすれば彼が何らかの形でペリーヌの秘密に迫る人物であることは予測が出来るだろう。そういう印象付けが自然に成されているのは名台詞欄シーンで語った通りだ。
 そして、いよいよ次話から物語はマロクールでの物語の「本編」に突入する。次話での出来事は「最初のきっかけ」でしかないが、いよいよペリーヌのパンダボアヌ工場を舞台にしたサクセスストーリーが幕を開くのだ。

 
まだまだペリーヌはトロッコを押し続ける
研究 ・パンダボワヌ工場2
 ここでもパンダボワヌ工場について考えたい。今回考えるのは「勤務時間」だ。
 劇中では「マロクールの朝は毎朝5時45分に鳴る工場の汽笛の音で始まる」という解説があった。この汽笛の音で人々は目を覚まし、工場へ出勤するという描写が何度も描かれている。これをどう受け取るかによって変わるが、いずれにしても工場の始業時間はある程度推定することが出来よう。
 この「5時45分」というのは、村の人々をたたき起こすためのものではないと考えている。恐らくではあるが、工場の原動力である蒸気機関が稼働状態に入ったことを知らせる合図だろう。工場では蒸気機関を運転するために徹夜で働いている人がいるはずだ、蒸気機関を停止してのメンテナンスは夜間の工場停止時にしかできないし、始業と同時に蒸気機関をフル稼働するためには朝の準備は欠かせない。そのような動力部の人達は夕方、一般工員達が帰宅する頃に出社して蒸気機関を停止して点検やメンテナンスを行い、それが終わった夜中の3時頃から蒸気機関を稼働させ、準備が整い機関回転が始まるのが「5時45分」と解釈すべきだ。汽笛が鳴った後は夜勤の動力部員は帰宅し、変わって早出の人達が回転した動力と機械類を接続して動作チェックを行うはずだ。これには1時間以上はかかるはず。
 するとペリーヌやロザリーなどの一般工員の出社時間が見えてくる、それは朝7時だということだ。人々はあの汽笛の音で目を覚まし、食事や身支度をして工場に出るのが朝7時、この解釈ならば汽笛が鳴ってからペリーヌが出かける準備をするシーンとの整合が取れるだろう。
 7時に始業だとすれば、昼休み1時間の8時間労働と考えれば、終業時刻は16時である。これもペリーヌに取って「夕方の長さ」を考えれば外れていないと思う。夕方4時なら池のほとりでポールが遊んでいてもおかしくない時間だし、ペリーヌが買い物した上であれこれ挑戦する時間もたっぷりあるわけだ。特に劇中では夏なので、日没までたっぷり2時間以上あることだろう。
 朝が早くて帰りも早いのは、当時は夜の楽しみなんて何もなかったから当然と言えば当然だ。テレビもインターネットもないから、人々は日が暮れたら寝るだけだ。そういう健康的な生活をして見たいなー。

第32話 「名前の秘密」
名台詞 「僕はねぇ、前から君のことをとても不思議な娘だなぁと思っていたんだ。もし良かったら、君のことを色々聞かせてくれないかな? いやぁ、話したくないなら無理にとは言わないけど、もし君が困っていることがあったら僕に相談してくれ。いつでも力になるからね。」
(ファブリ)
名台詞度
★★★★
 名場面欄シーンを受けて、帰りの馬車でファブリは「オーレリィ」と名乗っていたこの少女から色々と聞き出す。そう、彼はもう気付いている、この少女の「オーレリィ」という名は偽名で何か人に言えない事情で本名を名乗れないことを。そこでファブリは少女に「君は英語が出来るんじゃないか?」と聞いた事をきっかけに、両親のことなど色々問うてみる。そして少女が両親を喪っている事を知ると思い切って聞く、ピキニで話していた人が少女のことを「ペリーヌ」と呼んでなかったか?と。これに少女が「この事は誰にも言わないで下さい」と強く言うと、ファブリは「わかった、誰にも喋らないよ」と誓った後に、こうペリーヌに語る。
 この台詞は劇中でのファブリのキャラクター性を確立したと言って良いだろう。ファブリはこのサクセスストーリーにおいて、唯一ペリーヌの秘密を知りその上で主人公の力になるなるとともに、主人公の本音を引き出すという重要な配役が与えられている。この台詞に繋がるシーンも、この台詞自体も、ファブリがこのような役につくにおいて適役であることを主人公と視聴者に印象付ける。
 もちろんこの台詞の前、ファブリがペリーヌにいろいろ問うシーンはファブリが興味半分に聞いているように見えるかも知れないが、この台詞で彼が真面目にこの問題に対処しようとしていることは誰の目にも明らかになるだろう。そしてさらに、今話でのファブリの生真面目な性格…隣に住む同僚の看病を徹夜でこなしたり、その同僚を病院へ運ぶための馬車と御者を捜したりという行動で手を抜かなかった点なども加わり、彼の真面目で頼りになるキャラクター性が確立する。その仕上げがこの台詞だ。
 さらにファブリについて言うと、前話で滑稽な点を見せてくれたのもポイントが高い。こうして視聴者から見て「いい人」というキャラクターとして定着するのだ。視聴者もこういう人になら、安心してペリーヌを託せると思うだろう。
名場面 名前がバレる 名場面度
★★★★
 ベンディットの診察が終わり、無事に入院させたファブリだが、病院の外に出ると馬車のところで待っているはずの「オーレリィ」がいない。声を出して呼んでみると、通りの向こうで馬車を引いた女性と会話をしているのを見つける。ファブリが出てくるのを見たペリーヌは、この街で偶然出逢ったルクリと、かつて旅を共にしたパリカールに別れを告げ、ファブリが待つ馬車の元に走る。だが「ペリーヌ!」とルクリがペリーヌを呼び止める。その呼び声にファブリが反応しているのにペリーヌは気付かず振り返る。「今度こっちに来た時には、マロクールの方まで足を伸ばしてみるよ」と事情を知らないルクリは言葉を続ける。「待ってまーす!」ペリーヌが元気に返答するとルクリは馬車を出し、ペリーヌは首を傾げるファブリの元に戻ってくる。そして急ぎ馬車に乗り込む「オーレリィ」を、ファブリは不思議そうな表情で見送る。
 いよいよ物語がマロクールでの本題部分へと入って行く最初のシーンだ。まず描かれるのは、ファブリが「オーレリィの本名」を知ってしまうシーンだ。これまでマロクールで「オーレリィ」と名乗っていた少女、その名前が「オーレリィ」ではないことをファブリが知る。
 このファブリが「秘密」の一端を最初に握るシーンは実に上手く描かれたと思う。さりげないペリーヌとルクリの会話、それをわざとらしくなくさりげなく聞いてしまうファブリ。それだけではない、ペリーヌがルクリとパリカールが気になってファブリの反応を見落としている…いや、自分がファブリの前で本名で呼ばれたことに気付いてないという状況は、26話でのペリーヌとルクリの関係やこれまでのペリーヌとパリカールの絆を上手く使っていると感心する。
 またその時のファブリの表情や動きも良い。ルクリが「ペリーヌ」と呼んだ瞬間に反応するが、それをすぐ問いただすようなことはせずにまず自分の中に飲み込んでしまって一人で悩む。彼は彼なりに「聞いてはならないことを聞いてしまった」と感じていたに違いない。その彼の動きもこのシーンを盛り上げている。
 実はこの時点ではファブリに本名を知られることはマイナスには働かない、ペリーヌからすればどうしても前進できなくなったときに吐き出す相手が出来たのだからプラスになるはずだ。だが今話ではペリーヌにその決心が出来ないのは物語展開としては自然だろう、ファブリにどのような形で自分の正体を語るのかという新しい見どころがこのシーンによって追加されたのだ。
  
今回の
迷犬バロン

 ペリーヌがステーキを食べているのを見て、「俺にも分けろ」と吠えるバロン。ポールによると先ほどたっぷり食べたばかりだと言うが、なんてまぁ食いしん坊な…ま、犬だから仕方ないか。
気まぐれ度
★★
感想  いよいよペリーヌ物語は、マロクールでの本題部分に入って行く。ファブリがペリーヌの秘密の一端を掴むだけでなく、この物語を通じてペリーヌが英語が出来る事をファブリが知るという伏線が描かれる。もちろんこの伏線はペリーヌが社長付の秘書に抜擢されるのに必要な伏線であり重要だ。ファブリがペリーヌの秘密を握ることについても、ペリーヌの出世につれて彼女が重荷を一人で抱えて行くのを防止するだけではなく、ペリーヌに本音を言わせるとともにファブリがペリーヌに他の人には言えないことを語るきっかけにもなろう。そしてなにより、劇中に視聴者と同じく主人公の秘密を握る人物がいるのは見ていて安心だ。
 同時に今話では、この流れを使ってペリーヌが周囲の親切に感謝するように描かれている。もちろん秘密の一端を握ったファブリが、その秘密について口を閉ざすことを宣言した上で力になると言ってくれたこともあるだろう。セザールがステーキをご馳走してくれたのもあるかも知れないが、何よりもロザリーだ。自分の快気祝いの席のはずなのに、一番の親友が急な用事で連れて行かれてしまった。本当なら怒っても良いところを、一緒に食事をするために腹を空かせて待っているという話は美しい友情話として印象に残った人も多いことだろう。
 ちなみに「ペリーヌ物語」を再小説化した小説版では、今話部分で追加されている設定がいくつかある。それは過去にファブリがペリーヌを「オーレリィ」と呼んでも反応がなかった点や(ロザリーが声を掛けても反応がなかったシーンは29話で描かれた)、ファブリが工場内で英語の書類を落とした時にペリーヌがそれを拾って順番通りに並べたという点だ。これらの点からファブリは「オーレリィという名は本名ではないのでは?」という疑念を既に持っていて、「この少女は英語が出来る」と気が付いていたという設定が取れられている。アニメでは時間があるんだからそういう伏線を描いても良かったと思うんだけどなー。
研究 ・ 
 

第33話「テオドールの財布」
名台詞 「エドモン……エドモン、わしの息子よ。お前は一体何処にいるんだ? わしのところへ帰って来てくれ…。」
(ビルフラン)
名台詞度
★★★★
 ペリーヌが小屋でファブリにこれまでの旅のことと、自分の身の上(自分がビルフランの孫であることは除く)を語っていた頃、ビルフランは屋敷で食事をしていた。食欲が湧かないビルフランは「一人の食事は寂しい」と本音を語り、食事もそこそこに部屋に引き揚げる。そして階段を登り、2階の廊下に飾ってあるエドモンの肖像画の前に立ち止まる。その肖像画を愛おしく撫でたかと思うと、ビルフランは静かにこう語るのだ。
 一連のシーンでは「現在のビルフランに無いもの」がしっかりと描かれている。それは「家族」の存在であり、家族に囲まれた団欒のひとときだ。彼は召使い達に囲まれての食事の度に、これを痛感しているに違いない。気を許して話し合える相手もいないし、笑い合える人もないというビルフランの「寂しさ」を痛烈に描き出している。そして彼が求めている「家族」は、彼から見れば何処かにいるはずの息子エドモンであり、マリによる事前情報…ビルフランとエドモンは仲違いしたまま…とは違ってビルフランがエドモンの帰りを待ち続けていることが明確にされる。
 もちろん、視聴者にはロザリーやフランソワーズからビルフランは「エドモンの帰りを待っているに違いない」という推測は聞かされているが、この台詞ではそれが大当たりであることが描かれる。そしてこの台詞が出てきた事は、ペリーヌを見ている視聴者に「これなら名乗り出ても問題はないんでなのい?」と感じさせることに意義がある。そう、視聴者を油断させる台詞なのだ。
 さらにこの台詞が、ペリーヌがファブリに自分の身の上を語っている裏シーンとして描かれるのがポイントが高い。ペリーヌの「名乗り出られない」という悩みの裏で描かれる「名乗り出ても大丈夫かもしれない」というこの台詞はさらに視聴者の印象に強く残る。よって視聴者が油断しやすくなる…この台詞の何処にも「ビルフランが求めているのは息子エドモンだけで他はどうでもいい」という要素がないからだ。
 この「ビルフランの本心」と「視聴者を油断させる」という二面性をもったこの台詞は、今話の本筋から少し離れているが、描かれ方といいその役割といいとても印象に残った台詞の1つだ。
名場面 「事件」のあと 名場面度
★★★
 テオドールが財布を紛失したことが発覚し、工場内で財布を落としたと思い込んだ彼は、昼休みに全工員を集めて問いただす。ペリーヌに全工員の身体検査をするように命じるが、騒ぎを聞いたビルフランの命令で身体検査は中止となり、テオドールもビルフランに呼び出される。
 その日の終業後、家路を急ぐペリーヌとロザリーはこの日の出来事について語り合う。「本当に今日は腹が立ったわ」とロザリーが言えば、ペリーヌは力無く「ええ」と返すだけだ。「テオドールってどうしようもない人間ね」「私たちが貧乏だからよ」と怒り心頭のロザリーに「やたらと人を疑うのは許せないわ」とペリーヌも同調してみせる。「もしビルフラン様の後をあのテオドールが継いだら、この工場もおしまいね」このロザリーの言葉にペリーヌはハッとして、返事ができない。
 その直後に「ペリーヌは何だかとても恥ずかしい気持ちでした」とナレーターが解説を入れるが、ペリーヌのそんな小恥ずかしい気持ちがよく再現されていると思う。ペリーヌは自分の親類に当たるテオドールの行いが許せなかった、だからこの会話の前半ではロザリーに同調する。だが彼女がテオドールを許せなかった本質はロザリーとは違う、「親類として許せない」という胸の内に秘めた思いだった。だからロザリーの論調が「今日の出来事」から「将来のこと」に変わると同時に、その内容がテオドールの完全否定でフォローのしようがなくなってしまうと、これまで怒りで胸の奥底にあった「あんな親類がいて恥ずかしい」という気持ちが急に出てきたのだ。それがロザリーの言葉を聞いた瞬間のペリーヌの表情や動きに上手く現れている。
 とにかく、ペリーヌは情けなくもあり悲しくもあったのだ、知らぬ事とはいえ自分の親友に親類がこうも悪く言われなきゃならないことが。そして、この情けなくて悲しい気持ちを誰にも吐露出来ないことがもどかしかったことだろう。そんなペリーヌの気持ちが上手く再現されていて印象に残った。
 
今回の
迷犬バロン
  
 お前のせいで…。
気まぐれ度
★★★★★
感想  今話はテオドールの話だ、テオドールの人間性の低さが徹底的に描かれる。財布紛失事件では誰も信用せず人を疑う事しかできない性質が描かれ、ペリーヌとファブリが財布を発見して届けたシーンでは礼のひとつも言えないその性格が描かれる。「ビルフランの甥」という事が強調されただけで「こいつは社長の親類というだけで出世した男」と視聴者は自動的に判断し、朝寝坊癖があって会社にもいつも遅刻しているだらしなさが描かれるなど容赦なくテオドールを貶める。一女工でありまだ少女のロザリーに「テオドール」と呼び捨てにされ、前話で人格者であることが印象付けられたファブリを怒らせ、ペリーヌをして親類であることを恥ずかしがらせ、ビルフランに至っては「あいつと一緒に食事をするくらいならサルの方がまし」と言い放つ…テオドールを担当した銀河万丈さんも良く耐えたよなー。どちらかというと落ち着いた凛々しく低音が魅力のキャラクターを演じてきた銀河万丈さんが、このテオドールではそのイメージとは全く逆のキャラを演じてくれるのは「ペリーヌ物語」の見どころのひとつだろう。
 こうしてテオドールには人間性に問題があるキャラとして描かれ、叔父であるビルフランにも忌み嫌われていて、タルエルもファブリも取りあえず社長の親類だから頭を下げているだけのキャラとして決定づけられる。タルエルも人間性に問題があるが、彼は仕事ができるという裏付けがあるからまだついてくる人はいる。だがテオドールはコネだけの人間なのだ。ここでテオドールを徹底的に貶めるのには理由があり、その理由は物語を見続けていくと解ってくる。
 そしてこのテオドールという人間を「財布紛失事件」で印象的に描く一方で、同時にペリーヌに少し過去を振り返らせる。これは今話でどうしても必要な要素で、そのために前話でファブリがペリーヌの本名に気付いて「この娘に秘密がある」と気付かせる必要があったのだ。そしてファブリがペリーヌから身の上を聞き出す裏側で描かれるビルフランの本心(名台詞欄)、これを見せることで視聴者を油断させると共にビルフランの本心を示唆することで、これまで厳しい老社長として描かれたビルフランの裏側を描き、そのキャラ設定が完成するという展開だ。
 今話ではマロクールでの「本題部分」は動いていないように感じるが、テオドールが貶められたりビルフランの裏側が描かれたりという「キャラクター設定」部分は、前話でファブリを人格者として完成させたのと同程度の重要な点であって立派に「本題」のひとつである。そしてファブリの当面の不在が示唆されたことで、万を持していよいよペリーヌに出世のきっかけが舞い込んでくる。

 
そして、今日もペリーヌはトロッコを押し続ける。
研究 ・ 
 

第34話「忘れられない一日」
名台詞 「ブノア君、あの娘をしばらく通訳として使うことにする。そのように手配するように。手当ての方も余分に出すようにしてくれたまえ。」
(ビルフラン)
名台詞度
★★
 通訳として「オーレリィ」を呼んだビルフランはその仕事ぶりに感心しただけでなく、「オーレリィ」がかつて自分を気遣う言葉を掛けてくれた少女であることに気付く。そんなビルフランが、「オーレリィ」の通訳としての働きぶりを眺めながら、そばにいたサン・ピポア工場の工場長であるブノアにこう語る。
 今話の結論部分がこの台詞であるのは確かだ、ペリーヌの働きぶりがビルフランに認められるだけでなく、気に入られるという結果を得るのがこの台詞だ。ペリーヌのサクセスストーリーが立ち上がるのはまさにこの台詞であり、この台詞をきっかけにペリーヌはビルフランに直接仕える仕事を得て出世を始める。
 この台詞に至るシーンを見ていると、ビルフランがペリーヌに「何か」を感じたのは確かだろう。それは仕事のことだけでなく、過去のビルフランに対するペリーヌの気遣いから、まだ小さいけど「愛」を感じていたのは確かだろう。だがそれが「愛」であることにはまだビルフランは気付かず、彼女に感じた「何か」を知るために彼女をそばに置こうとしたのかも知れない。その上で仕事ぶりが良かったことや、社内に他に通訳が出来る人間がいないことを考慮すれば、彼女をそばに置いておく格好の理由ができたという見方も出来るだろう。
 同時にペリーヌは、またもビルフランからお給料upを言い渡されるのだ。
名場面 ペリーヌVSタルエル 名場面度
★★★
 タルエルに呼び出されたペリーヌは、工場長室を訪れる。部屋に入ったところで思わず立ち止まってしまう「オーレリィ」に、タルエルは自分の机のところまでくるように命じる。そしてタルエルはペリーヌに英語ができるかどうかを高圧的に聞き、それが間違いない事実であると知ったタルエルは「今日はトロッコ押しの仕事は打ち切りだ」と「オーレリィ」に宣告する。ところがペリーヌはその「打ち切り」という言葉を「クビになる」という意味で受け取ってしまい、「やっぱりバロンのことだったんですね、それだけは勘弁して下さい」と必死になって訴える。「バロン? そいつは何者だ?」と聞き返すタルエルに、「私の友達です。変な顔をした犬ですが…」と訴えるペリーヌ。「お前? 気は確かか?」と前置きを置くと、「黙れ! もうそのバロンとか言う奴の話はやめろ、お前は今すぐサン・ピポア村に行くんだ! お前はそこでビルフラン様に会うんだ」とタルエルが怒鳴り散らす。ペリーヌは「ビルフラン様に? 私が?」と返すと、今度はうっとりした表情で「おじい様が…」と呟いてしまうペリーヌ。「ビルフラン様は私に何の御用があるのでしょうか?」とペリーヌがタルエルに問うと、「行けば解る」と怒鳴り返されてしまう。
 ここはとても面白いシーンだと見る度に思う。最初はタルエルとペリーヌはごく普通に「英語がわかるか?」という話題について語り合っているのだが、タルエルの「打ち切り」の一言で瞬時に二人の会話がかみ合わなくなる。誰かが一言を選び間違えたがために、会話がかみ合わなくなることは実生活でもよくあるが、それがうまく再現されているのが面白い。タルエルも「今日の仕事内容は変更」というような言い方をすれば良かったのに、短く事をすまそうとしてわざわざ誤解を与えかねない単語を選んでしまっている。そしてペリーヌは「バロンが原因で自分がクビになる」と勘違いして、そうならないように懇願してしまうから話がややこしくなる。この懇願の演技が真に迫っていることがこの面白さに拍車を掛ける。
 それもタルエルが怒鳴ることで解決したかに見えるが、よく見るとその内容にペリーヌが大人しくなるキーワードが入っていただけの話であった。それが「ビルフランが呼んでいる」という趣旨の言葉である。その後のペリーヌの「うっとり」と、それを見たタルエルの表情の対比はこれまて見ていて面白い。
 そんなこんながあって、タルエルはペリーヌに本題を伝えられないというオチがつく。タルエルは完全にペリーヌのペースに乗せられてしまい、自分のペースを乱されたタルエルのイライラが上手く描かれている。そのイライラによって「彼女が何をしに行くか」という本題を語るのをやめてしまっているのだ。その後のシーンで、ペリーヌとギョームがペリーヌが何をしに行くか知らないまま馬車に乗ったことを話題にするが、その原因は実はペリーヌが作っていたという面白いシーンとなるのだ。
  
今回の
迷犬バロン
 
 やっぱ今話は、工場で乱入騒ぎを起こすバロンだろう。製品におしっこを掛けるようでは弁明の余地はない。このシーンのおかげで、飼い主ペリーヌは自分が工場をクビになると勘違い。
気まぐれ度
★★★★
感想  いよいよサクセスストーリーの幕が上がる。前話までは様々な設定を確立させる話が進んでいたが、今話でついにペリーヌはビルフランの前で仕事ぶりをアピールする機会が与えられる。そしてそれが認められてビルフランのそばでの仕事を確保するに至る。つまり今回はペリーヌがビルフランに接近する「きっかけ」だ。
 しかし、最初はそんな雰囲気を全く感じさせない展開だ。ペリーヌが働く「工場の日常」から物語が始まり、そこにバロンが乱入騒ぎを起こすという本題とは全く無関係のシーンが描かれる。バロンの乱入騒ぎはあくまでも名場面欄シーンにおいてペリーヌが「工場をクビになる」と勘違いして話を面白くさせるためのスパイスに過ぎない、万人受けせねばならないアニメでなかったら不要なシーンであるのは言うまでもないだろう。だがここでペリーヌの勘違いは、このシーンでタルエルが事務的に用件を伝えるより、何倍も面白いシーンに仕上がったのは誰も否定しないだろう。
 そして後半はサン・ピポア工場に舞台が移る。そこで映し出される現実は、ビルフランが呼び出したのは「オーレリィ」個人ではなく「英語を理解出来る人間」であったことだ。同時にこの事実はペリーヌに失敗が許されないという「現実」を突きつける事になり、視聴者と主人公を不安にさせる要素だ。ここで「お前は英語ができるんだな」と詰め寄るビルフランに、「日常会話は解るが機械や商売上の専門用語は解らない」とペリーヌが正直に申し出るシーンは、人によっては不安を煽られるし、また人によっては「こいつなら大丈夫」と感じるという、人によって感じ方が変わるシーンだろう。私は前者であったが。
 そして工場での翻訳シーンでは、登場人物達はフランス語で会話するときは日本語で再現され、英語はそのまま英語という描かれ方をされる。その中でペリーヌがちゃんと実績を上げたこと、その途中でビルフランが「オーレリィ」という少女は自分を気遣ってくれる少女だと解る点は重要だ。この2点はビルフランにとってポイントが高い点であり、ペリーヌがのし上がるために有利かつ避けては通れない要素であっただろう。
 もしここでペリーヌが通訳に失敗したら…ペリーヌが祖父に接近する機会は永遠に来なかったかも知れない。

 
今話もペリーヌはトロッコを…あれ、あれれ…
 
楽しそう!
研究 ・パンダボアヌ工場3
 さて、今話もパンダボアヌ工場の研究だ。今話ではビルフランが経営する会社には、マロクール工場の他にサン・ピポア工場というもうひとつの工場が出てくる。この工場は劇中の台詞から存在は示唆されていたが今話で始めて画面に登場し、その規模はマロクールの工場より一回り小さく描かれている。そしてブノアという工場長が存在する事が確認されている。
 このブノアの存在からやっと見えてくるのは、この会社の体制が見えてくる。これまで多くの社員や役員が劇中に描かれていたが、これらがどのように配置されているかがやっと見えてくるのだ。
 トップにビルフランがいるのは当然として、そのすぐ下がどうなっているかという問題がある。劇中ではナンバー2争いをタルエルやテオドールがしていることが解るが、彼らが人事的にどのような位置にいるのか、という点も見えてくる。
 タルエルであるが、彼は「マロクール工場の工場長」という立場で、社内に立派な部屋を持っている。この部屋は社長の居室がある建物にあり、詳細を後述するテオドールも同じ建物に出勤していることを考えれば、本社機能がある建物であるのは明白だ。タルエルが本社内に居室を持っているとすれば、「工場長」以外に兼務している役職があると考えられる。恐らく「マロクール工場工場長」は「製造管理部門」の部長を兼ねているのだろう。そうすれば彼が工員の人事権や給与決定権を持つのも見えてくるし、ブノアの待遇と比べて明らかに上位に描かれているのも納得がいく。彼はマロクール工場だけでなく、全工場に対する指揮権を持った「製造管理部長」であり、サン・ピポア工場に対する指揮権も持っていると考えられる。ブノアは同じ「工場長」でありながら、「製造管理部長」のタルエルの下でサン・ピポア工場の管理と運営を任されていると言ったところだろう。そうすればブノアがビルフランの後継者争いに出てこないのも納得出来るだろう。ちなみにオヌーはタルエルの配下で、職場長みたいな役職に就いていると考えられる。
 続いてテオドールであるが、前話でのファブリとの会話からすると、彼が工場での「予算」を握っているのは明白だ。また、次話でテオドールの専門が「経営」であることもハッキリする。つまりテオドールは総務部門の長であり、会計や給与管理等を主に「金」に関することを担当していると思われる。そんな重要なポストにあんな奴が就いているなんて…多分部下が優秀なのだろう。
 ファブリやベンディット、それにモンブールなどの「技師」はタルエル配下のように思われるが実は違う。それは前話のシーン、ファブリが老朽化した機械装置の買い換えをテオドールに訴えている事から判明する。もし技師が製造管理部の下にいれば、その仕事はタルエルの仕事になるはずだ。また彼らがマロクール工場とサン・ピポア工場を跨いで活動しているのも気になる。
 だから、「技師」はタルエルの製造管理部門でもないしテオドールの総務部門でもないのは明白だ。技術開発部門が別にあって、その配下で仕事をしていると見るべきだろう。前話の機械装置の話については、タルエルから「技師」に話があり、「技師」が検査の結果交換が必要になるとその話がタルエルと「金」を握っているテオドールの双方に話が上がることになる。その中でテオドールに話が持って行かれた部分だけが劇中に再現された、そう見るのが妥当だろう。
 この技術部門の長が誰かは描かれていない。49話辺りで重役会議が描かれるが、この中にそれに該当すると思われる人物も出ていない。それどころかビルフランが直接ファブリに命令している…つまり技術部門の長は社長、ビルフランが兼務しているのだ。そう考えれば、後継者争いに技術部門の長が出てこないことも納得出来る。
 こう考えると会社の組織は大きく3部門に分かれ、そのトップがそれぞれタルエル・テオドール・ビルフランという構成であることは見えてくるだろう。そしてさらに言うと、この3人が取締役で会社の運営方針決定権を全部持っていることも確かであろう。だからナンバー2争いかつ後継者争いは、タルエルのテオドールの2者間で起きるということなのだ。

第35話「英語の手紙」
名台詞 「だって、僕は経営の方が専門です。だからドイツ語は勉強しましたよ。こんな風に現場のことをやらされると解っていたら、英語だってやってましたよ。」
(テオドール)
名台詞度
★★
 サン・ピポア工場の朝、マロクールから通訳の「オーレリィ」が到着するのを待つ間、ビルフランとテオドールが部屋で会話する。テオドールは「オーレリィ」の服装が酷いとして上で、あんな娘に通訳なんかやらせることはないと訴える。それに対してビルフランは「お前が英語がわかるならトロッコ押しの娘なんか引っ張り出さずに済んだ」と指摘すると、テオドールがこう答えるのだ。
 一言で言えば「ザ・言い訳」。「お前が英語を使えれば…」と指摘されてそれを恥じて反省して謝罪するのでなく、「自分が英語を使えない理由」を淡々と語るだけの男。これでこの男の底が見えたと言って良いだろう。その底の浅さを上手く再現し、また銀河万丈さんの演技も加わって見事に再現されている。
 この台詞に対しビルフランは「勉強に遅すぎるということはない」と鋭く指摘するが、まさにその通りで自分にとっても耳が痛い。本当の「できる」男なら「以後勉強します」とか応えるし、そうでなくても普通の男なら口先だけでもそう返答すべきところだろう。だがテオドールはその台詞に返す言葉が無い、伸びようとする力がないのだ。あー、耳が痛い。
 この台詞と、それに対する指摘の反応でテオドールという男のダメ人間ぶりが明確にされる。この点では面白い台詞だと感じた。
名場面 ペリーヌとロザリーの会話 名場面度
★★★
 この日の仕事が終わり、ペリーヌの足が向いた先は親友のロザリーのもとであった。ペリーヌはタルエルが自分とビルフランの間の出来事について、必要以上に問い詰められたことについて愚痴を言わずにいられなかったのだ。
 その愚痴を黙って聞いていたロザリーは、ペリーヌの話が終わると「わかったわ!」と叫んでタルエルがビルフランに届く英語の手紙を気にする推論を語り出す。それは「タルエルがエドモンの消息を知りだかっている」という内容だ。そしてビルフランが弁護士のフィリップを使ってエドモンの消息を捜しているという事を語り出す。ペリーヌは驚いて「それ本当のこと?」と聞いた上で、フィリップがどんな方法でエドモンを探しているのかを尋ねる。そう、ペリーヌだけがエドモンが既にこの世にいないことを知っているからだ。ロザリーは「インドのあちこちの教会に手紙を出しているの、エドモン様を知っている人を捜してくれって…エドモン様がインドでお暮らしになっていたことは確かなんだから」と自分が知る情報を語る。「ビルフラン様はエドモン様を憎んではいらっしゃらないのね?」とペリーヌが思わず聞くと、「どうもそうらしいわ」「もう歳だから跡を継いでもらう人が必要になったのよ」と応える。だけどペリーヌは食い下がる「だけど、もしもよ…エドモン様が帰らなかったら…亡くなったりして…」と最悪のパターンかつ真実であることを訊く、「そこよ、エドモン様に帰ってもらいたくない人がいる訳よ。テオドールさんやタルエルさんは…」とロザリーは力説する。「二人ともビルフラン様の後を継ぎたがっているのね」ペリーヌが回答を出すと、ロザリーは「そう、でもあの二人が工場を引き継いだらどうなると思う? きっと大変な事になるわ」と力説した後窓の方を振り返り、「おばあちゃんの話だとエドモン様はとても優しい方だから、私もエドモン様に帰ってきて欲しいわ」と夕陽に向かって語り出す。
 解説が長かったが、ここはタルエルとテオドールの目論見や、それに対して一般的な工員がどう考えているかが語られるシーンだ。もちろんロザリーの台詞は一般的な工員を代弁する内容である。このシーンを通じて視聴者は、ビルフランの工場で起きている「後継者争い」の全容を知ると共に、ビルフランが「英語の手紙」について気にする行動理由をも知ることになる。さらに本人の意思とは無関係にペリーヌが「オーレリィ」としてその渦中に巻き込まれてしまったことや、争いの中でもっとも重要な答えである「エドモンの行方」という回答をペリーヌが先に知っているという辛い立場に立たされた事も理解出来るだろう。つまりこれらの争いを知った瞬間、ペリーヌやビルフランの心境とは別にペリーヌはビルフランだけでなく誰に対しても自分の正体を名乗れなくなってしまったのである。
 ロザリーはペリーヌの正体を知らないから自分が知っている情報を淡々と語るだけだが、その内容はペリーヌを驚かせるのには十分だ。そのペリーヌの驚きと困惑も上手く再現されている。それだけではない、親友のロザリーまでが既にこの世にはいないエドモンの帰りを期待していると知って、ペリーヌの困惑は極みに達することだろう。
 だがここでもまだペリーヌが取りたくてたまらない情報はない。それはビルフランが自分の母に対してどんな感情を持っているかである。ビルフランがエドモンを捜索しているのは希望ではあるが、それは母を含んでのことかどうなのかという回答はロザリーの情報にはないのだ。 だが視聴者はビルフランが息子を捜しているのは真実だと既に知っている。ペリーヌに「大丈夫だよ」と語りかけたくなってしまう、つまり視聴者は油断したままでこのシーンを見る事でさらに油断が大きくなる部分でもあるのだ。
  

 
今回の
迷犬バロン
 
 今日のバロンは、ペリーヌが仕事に言っている間、街角で寝ていたようだ。他にやることがないのか、この街に飽きただけなのか…。こう言うときのポールのはずだが、描き忘れられている。
気まぐれ度
感想  今話は一口に言えば、ビルフランの会社の中で醜い争いが起きている事が明確にされ、本人の好む好まざるに関係なくペリーヌがその渦中に引き込まれていく様が描かれている。このペリーヌが争いに巻き込まれている様を、視聴者は劇中のペリーヌと同じく訳が分からないまま見せつけられるというつくりだ。最初はタルエルの不穏な行動で始まり、続いてビルフランお付きの運転士であるギョームまでもが不安な動きをし、テオドールがこの争いを優位に進める上で「オーレリィ」の存在が邪魔だと感じるのは、タルエルとテオドールの攻撃的な行動だ。対してビルフランも「守勢」を取っていて、「オーレリィ」を自分の陣営に引っ張り込もうとしているのは確かだ。
 これを細かく言えば、タルエルが「オーレリィ」を使ってビルフランに関する情報を仕入れたいのは言うまでもない。テオドールは「オーレリィ」が工員でありタルエルの配下だからこそ、「オーレリィ」がタルエルからスパイ的な任務を背負わされているのでないかと不安を感じるから彼女を「邪魔」と感じる(事実そうだったのだが)。ビルフランはテオドールの態度からこれを見抜いているか、技師の誰かからタルエルやテオドールの不穏な行動とその理由を聞いていたに違いない。ただそんな技師も「ダブルスパイ」がいる可能性を想定しているのだろう、入社して間もない純粋な工員である「オーレリィ」を、誰の影響も受けず純粋なうちに自分の味方に付ければ翻訳作業を安心して任せられると判断している(…というのは、この歳になって見るからわかることなのだ)。つまり争っているのはタルエルとテオドールだけでなく、ビルフランも含めた「三つどもえ」であり、そこへペリーヌが「オーレリィ」として放り込まれた形なのだ。
 だがそのような争いが起きているという理由や内容の説明は、今話では徹底的に後回しにされる。視聴者もペリーヌ同様、何の説明も無くいきなり争いの渦中に放り込まれて疲弊するのだ。視聴者にもその点を最後まで語らないのは、ペリーヌに感情移入させるべき素晴らしい手法であると感じた。そして「仕事で嫌な事があったらから親友に愚痴を言う」という年相応の行動をペリーヌに取らせることで、ロザリーが謎解きを全部してくれるのは名場面欄で語った通り。ここではロザリーというキャラは本当に上手く使われている、対して弟のポールは早速描き忘れられているけど。
 そして次の不安として、予告編ではファブリの出張帰りやベンディットの復帰でペリーヌの翻訳としての仕事が終わり、ペリーヌとビルフランが引き離されてしまう事が示唆される。だが大人になって見ると既にそういう訳にはいかなくなっているのも理解出来る。ペリーヌは社内の醜い争いに一度巻き込まれてしまったのだから、そこから抜け出すことはもう不可能になっているのだ。ペリーヌにはこの争いの渦中で生きる事しか、この社内で残された道はないのだ。
研究 ・ 
 

第36話「よろこびと不安」
名台詞 「放っておけ。わしを裏切った者を、わしは許さん。」
(ビルフラン)
名台詞度
★★★★
 名台詞欄を受けて、ペリーヌは思わずビルフランに声を掛ける。ところがビルフランは静かに、威厳を持ってこう言う。
 ビルフランの頑固で妥協を許さぬ「性格」が、この台詞ひとつで完全に印象付けられたと言って良いだろう。ビルフランは仕事中でも酒を呑んでしまうギョームに何度も注意してきた、だがそれでも治らない彼を見て「裏切り」と映ったのである。さらに言えば目の前に新しい御者もいる。すると答えはひとつに決まっている。ビルフランはギョームの顔も見たくない心境だろう(って見えないけど)。
 またこの台詞にはもう一つの効果がある。ペリーヌと視聴者を不安のどん底に落とす要素だ。ペリーヌは誰がなんと言っても過去にビルフランを裏切った男の娘だ、名乗ればそのビルフランの厳しい刃がこっちへ向くことも容易に想像がつくだろう。ナレーターもこの一言が理由でペリーヌが「名乗るまい」と決心したことを語っている。そのペリーヌが名乗れないという心境に至らせるために、これほど説得力がありかつビルフランらしい台詞はあるだろうか?
 また、この台詞を威厳たっぷりに語る巖金四郎さんの名演も印象的だ。もうこの人は故人だけど、もし生きてれば100歳か…威厳があるはずだ。
名場面 ビルフランとギョーム 名場面度
★★
 ビルフランがサン・ピポア工場からマロクールに戻る予定時刻、その馬車を手繰るはずの御者ギョームの姿が見えない。「代わりの御者を用意しろ」と叫ぶビルフランにオロオロするばかりのブノアょ横目に、ペリーヌが「よろしければ私が…」と立候補する。ビルフランがペリーヌに御者の代わりを命じ、マロクールへ出発する。ペリーヌは祖父を乗せて馬車で旅をしている気分になり、またビルフランに馬車の扱いが上手いと褒められつい頬が緩む。
 そしてサン・ピポアの市街地で酒場から出てきたギョームが、ペリーヌとビルフランを乗せた馬車を止めるのだ。「昼メシが遅くなってしまって」とビルフランに頭を下げ、ペリーヌには下車するように命じる。だがそれに従い下車しようとしたペリーヌをビルフランが制止し、「お前、酒を呑んでいたな」とギョームに鋭く指摘する。「ほんの少々ですが馬を扱うのに差し支えは…」と言い訳するギョームに、ビルフランは仕事中に酒を呑まないよう何度も注意したと続け、さらに言い訳しようとするギョームにビルフランが判決を下す。「ギョーム、お前にはもう用はない」「…まさか、そんな…」「お前はクビだ。オーレリィ、馬車を出しなさい」「ビルフラン様! このギョームは15年もあなたの御者としてお仕えしてきたんですよ、それを…」とすがるギョームを見てビルフランの怒りが爆発、ビルフランは持っていたステッキで馬を叩いて馬車を走らせる。「旦那様、お待ち下さい、もう二度といたしません、お許しを…ビルフラン様…」叫びながら馬車を追うギョーム、ペリーヌは「ビルフラン様…」と声を掛けるが、名台詞欄の台詞となるわけだ。
 ここまで、ビルフランが妥協を許さぬ人物であることは語られてきた。だがそれが明確に描かれた事は無い、仕事に打ち込むビルフランの姿は描かれ、必要以上にビルフランを恐れる人々の姿は描かれたが、ビルフランを裏切ると何が待っているのかを明確に描いたことは無い。それが始めて描かれたシーンであろう。
 言っちゃ悪いがギョームというのはこのシーンのためだけに設定された人物と言って過言ではない。ビルフラン専用の御者でありながらタルエルに取り入り、タルエルのいうがままにスパイ活動をしていた彼がいずれ「失態」を見せるのは誰の目から見ても明らかだ。その失態はタルエルによるスパイ活動がバレるなどの展開を多くの人が予測したと思うが、こういう本人の意識の低さが露呈することでそれが演じられるとはちょっと予想外。いずれにしろタルエルがビルフラン専用の御者というスパイを失い、戦術的に一歩後退することとなる。
 また、このシーンの描かれ方も良い。ギョームが出てくるまでのペリーヌとビルフランのドライブは、ペリーヌから見れば本当に楽しそうに描かれている。この楽しいひとときがギョームによって破壊されるという展開は、かつてこのビルフランを裏切った男の娘であるペリーヌに重圧を与えるシーンとしての要素として上手く作用している。つまりこのギョームが出る前と後の落差のように、ビルフランとの仕事が急にうまく行かなくなってしまうのではないかという不安をペリーヌと視聴者にうまく植え付けるのだ。
 

 
今回の
迷犬バロン
 
 木から木へと走り回るリスを追いかけて、木にぶつかるバロン。その涙が印象的だ。「しょうがない犬ねぇ…」はペリーヌ談。
気まぐれ度
★★★★
感想  「よろこびと不安」…うまいタイトルを付けたと感心する。今話では不安と喜びがペリーヌに交互にやってくる。まずはファブリが帰還したことで通訳の仕事を降ろされてビルフランと仕事ができなくなってしまうという不安、次にサン・ピポア工場でビルフランに「お前の仕事はわしが決める」とされてしばらくビルフランの仕事をすることになったよろこび、次にビルフランに両親のことや旅のことなどを聞かれて「正体がバレる」という不安、ビルフランと二人でドライブしているような馬車上での喜び、そして最後にビルフランを裏切ったギョームの姿を見て「自分がああなるのではないか」という不安、これらがうまく交互に描かれている。でも旅の回想シーンをあんなに長く入れることは無いのでは…あ、本筋だけでは時間が持たないのね。
 この喜びと不安を交互に描くことで、大きな「喜び」と大きな不安がひとつずつあるのは確かだろう。「不安」は間違いなく名場面欄・名台詞欄の要素だが、「喜び」もかなり大きいのが今話の特徴だ。それはビルフランの「オーレリィ」に対する信頼がハッキリしたことである。ビルフランは「オーレリィ」の声が聞こえないからいないかも知れないと感じると、名場面欄のように妥協を知らぬ態度を露わにする。この要素はもちろん「オーレリィ」のように仕事ができる人間を遠ざけた怒りであり、実は近くにいることを知ると「仕事はわしが決める」という台詞で持って「オーレリィ」を遠ざけないと宣言しているのだ。さらに言えば、その後の「オーレリィ」に御者を任せるシーンはそのビルフランの「信頼」を勝ち取ったことを上手く示している。これが今話最大の「喜び」であり、この後の秘書への大抜擢に説得力を持たせる事になる要素だ。
 それと、今回描き忘れ無かったのはポールの姿だけでなく、ギョームが社長の一存でクビになったと知ったタルエルの反応だ。ギョームはビルフランの御者という立場を利用して、タルエルのスパイになることで「ビルフラン後」の事も考えて行動していた。同時にタルエルにとってはビルフランの事に関する貴重な情報源であり後継者争いをする上での武器だ。その武器を唐突に失ったショックと驚きを、忘れることなく描いたのはポイントが高い。この辺りは「会社」で「後継者争い」という要素を描く物語だからこそ、描き忘れてはならない部分で「よくできている」と感心する部分だ。
研究 ・ 
 

第37話「おじいさんの大きな手」
名台詞 「だがオーレリィ、服装はどんなものを選んでも構わんが、いいか? わしはお前がどんな物を選んだかで、お前の品性や趣味を判断するぞ。」
(ビルフラン)
名台詞度
★★
 ビルフランに呼び出されたペリーヌは、社長直々に社長秘書に着任するよう命じられる。そしてその条件として、現在着ている服を替えるように命じられる。その理由は今後は社長付の秘書として事務所で働く上、社長の客にも会わねばならないので秘書に相応しい服装が必要と言うことだ。そしてそれらの説明の後、ビルフランが付け加えるのがこの台詞だ。
 ビルフランが知るこの少女のことは、1に仕事ぶり、2に簡単な生い立ち(だが親の名は知らない)、3に気遣いができる少女だと言うことだけである。この「オーレリィ」と名乗る少女の顔はもちろん、どんな髪型でどんな服装をしているのか解らない。服装については「ボロボロの服を着ている」という情報がテオドールからあっただけである。だからビルフランは「オーレリィ」と名乗る少女の、品性や趣味を何処かで判断する必要が生じたはずだ。
 本来なら「こういう服装をしなさい」と命令出来る立場だが、そうしなかったのはやはり自分に秘書に相応しいかどうかのテストであることと、少女が自分が期待している通りの娘であることを信じてのことだろう。こういうビルフランの細かい心境が見えてくる台詞で、印象深い物だ。
名場面 ファブリ来訪 名場面度
★★★
 秘書に着任したペリーヌは、まず最初に「待機」を命じられる。同時に社長室隣の秘書室を与えられ、ここで社長の命令通り待機していた。そこに鳴り響くドアをノックする音、極度の緊張にあったペリーヌは自分の服装を一度見直してから、意を決して返事をする。ドアが開くとそこに現れたのは、ファブリだった。
 その姿を見てホッとするペリーヌに、ファブリは「おめでとう、秘書になったんだってね」と声を掛ける。「ええ」と返事するが言葉が続かないペリーヌに、「今何しているんだい?」と訊く。ペリーヌは「頭がボーッとして、ただぼんやり座ってたの」と真実を答える。ペリーヌの緊張を感じ取ったファブリは「君ならきっと素晴らしい秘書になれるさ」と続ける。「本当にそう思う」と問い直すペリーヌに「もちろんさ」と答えると、「ありがとう、ファブリさん」とペリーヌは半べそで返答する。「おい、どうしたんだよ? 泣きそうな顔して…」とファブリが思わず言うと、「だって、急に秘書になれと言われて心細かったときに、ファブリさんが優しく声を掛けてくれたんですもの」とペリーヌは今の心境を包み隠さず話す。「意外だなぁ、僕は君はもっと心が強い娘だと思っていたのに…」ファブリが驚くと、「私もよ、でも…やっぱり女の子ですもの」とペリーヌは答える。ファブリはそんなペリーヌの顔をしばらく見下ろすと「しっかりやれよな」と言い残して部屋を出て行く、「頑張るわ」と返すペリーヌに、ファブリは思い出したかのように「ああそうだ、ロザリーが一緒にお昼を食べようって。いつものところで待ってるってさ」と笑顔で言い残して、ドアを閉める。
 やはりペリーヌも緊張している。マロクールに着いてからここまで、その完全無欠ぶりを見せたペリーヌの本心がうまく描かれたシーンである。一人で見知らぬ街にやってきて、池のほとりの小屋で一人暮らししながら何でも自分で作ってしまう少女。英語が堪能で通訳に抜擢されるとその仕事を見事にこなし、社長から絶大な支持を得た少女。だがその同じ少女が緊張で身体を硬くし、この先の不安に怯えているのだ。そんなペリーヌの姿を引き出せる登場人物は1人しかいない、ファブリの出番である。
 ファブリもここまでのペリーヌの生き様を知っているだけに、このペリーヌの姿には大いに驚くところだ。さらにペリーヌがもっと心が強いと思っていたのは、ファブリだけでなくペリーヌ自身もそうだと解る。
 このシーンはペリーヌがまだ13歳の少女である事をうまく印象付けている。突然の大抜擢に驚き、緊張するありふれた少女の姿を入れることで、視聴者に彼女の年齢を忘れさせない効果がある。ここまでのペリーヌはどうしてももっと年上に見えてしまったからなー。この効果のおかげで、ペリーヌがどんな優秀でも少女だと良い意味でも悪い意味でも視聴者に突き付け、ペリーヌが祖父に近付きたいという意思を持っていることも忘れさせない役割があるのだ。
  
今回の
迷犬バロン
 
 今話のバロンは、朝の寒さを強調するだけの役だった。それよりバロンの後で着替えるペリーヌばかりが気になってしまうシーンだったぞ…。
気まぐれ度
★★★
感想  いよいよペリーヌがビルフランの秘書に大抜擢される。これはペリーヌが祖父ビルフランに近付くための重要なステップで、サクセスストーリーとしては重要なポイントになる設定であろう。前話までにペリーヌは「仕事ぶり」でビルフランから絶大な支持を得る事に成功し、そばで仕えることに成功したのだ。
 今話では前話で一度出てきた「不安」のひとつを呼び覚ますことから始まった。それはペリーヌの処遇が今後どうなるかという点で、前話では「これでビルフランとの仕事が無くなってしまう」という形の不安として描かれた点だ。元の職場に戻れば「オーレリィ」が通訳で抜けた欠員は補充されていて、他にも手空きの場所はないという。これで仕事場を失うという展開のときに、多くの視聴者は「前話でビルフランはオーレリィの仕事は自分が決めると力説していただろー」と突っ込みたくなるところだろう。だがペリーヌの立場から見れば、その言葉を盾に社長に直訴などできるはずが無く、オヌーに言われるがままにタルエルに相談する。もちろんタルエルはペリーヌに辛辣な言葉を掛けるだけだ。
 そこでファブリが現れれば、ペリーヌはビルフランに呼ばれていることは簡単に理解出来るだろう。その通りに物語は展開し、大抜擢が描かれるのだ。あとは名台詞欄、名場面欄の通り。
 もちろんこの抜擢にタルエルもテオドールの良い顔するはずがない。彼らは社長に接近出来る地位に就くまでに苦労もしたはずだし、辛酸も舐めてきたはずなのだ(特にタルエル)。それが就職から僅か数ヶ月の娘がね簡単に秘書になったのだから納得出来るはずがない。2人のそんな気持ちを省略せず、ペリーヌが社長の側に着いたからのペコペコさせるだけにしなかったのは上手く描いたと思う。こうしてペリーヌが麻の色を見分ける「テスト」をされる事で、ペリーヌがビルフランの元で働けると2人に対しても視聴者に対しても強い説得力を持つことになる。本当、上手く出来たストーリーだ。
 さらに昼食の約束をしたロザリーのことも忘れず、ペリーヌがビルフランの手を引いて歩くと言うことでサブタイトル通りのオチを付けて、話がうまくまとまったのだ。
 だがペリーヌの行く手はこれからが大変なのだ。本格的な妨害はここから入って来るし、ビルフランが真実を知らずにペリーヌを苦しめるのはここからの展開だ。
研究 ・社長付の秘書
 ペリーヌが社長付の秘書になる、これは物語にとっても「ペリーヌがビルフランに接近する」というとても重要な点であり、これなくしては物語が前進しない部分だ。
 ペリーヌが就いたのは、ビルフランの業務上の秘書というより、個人秘書みたいな形だと思えばいいだろう。ビルフランは仕事を全部自分一人で抱えてやっていたようで、秘書を必要としていなかったに違いない。ところが34話の一件で、自信の語学力…つまり英語を語る能力に問題があることは問題となったはずだ。同時にその英語の事では、私信など他人に読まれたくない手紙も誰かに翻訳させることになる。そこで会社に来て比較的新しい人間、つまり社内の争いでどの派閥にも属しておらず、かつ信用出来る人間を秘書にしたいと考えたのだろう。そこで目が当てられたのが「オーレリィ」だったはずだ。
 何故彼女でなければならないのかは、前述したように入社から日が浅く争いのどの派閥にも染まっていないからだ。この事実はタルエルにもテオドールにも理解出来ないのは当然、そんな部分がキチンと描かれているのは好感度が高い。
 34話の研究欄で、ビルフランの会社の体制について考察した。ビルフランは社長でありかつ技術開発部門の部長を兼ねていること、タルエルは工場長だけでなく製造管理部門の部長を兼務していること、テオドールは総務部門の部長であること、この3人体制で会社の経営が進んでいるとした。その推測が正しい事を裏付けるのは今話だ、工員のペリーヌは今後の仕事についての相談はタルエルにするよう指示されるし、そのペリーヌを「社長が呼んでいる」として呼びに来たのはファブリ。つまりファブリがタルエルやテオドールの配下でなく、ビルフランの配下であることは確定だ。もし「技師」が工場長のタルエルの下であれば、ビルフランが「オーレリィを捜せ」と命じるのはファブリでなくタルエルになったはずだ。
 そこで気になるのはペリーヌの社内での立場がどう変わったかだ。「トロッコ係」は製造管理部門兼マロクール工場長のタルエル配下だから、これまでペリーヌに対する指示命令は全てタルエルから下りてきていた。だが今回タルエルを通してこなかったと言うことは、通訳としてサン・ピポア工場で働いている時点で、既にペリーヌはタルエルの製造管理部門から引き抜かれていたと考えることはできる。これなら「トロッコ係」に補充があったことも、それを聞いて相談されたタルエルが冷たかったのも合点が合う。
 ペリーヌが引き抜かれた先…それはひとつ、ビルフランの技術開発部門である。ペリーヌは知らないうちにこちらに転属していて「事後承認」のかたちとするつもりだったのだろう。つまり通訳をしていた時点で、ペリーヌの同僚はロザリーではなくファブリになっていたのである。
 そして「秘書」というのは、この会社に「秘書部」がなく他に秘書が存在しない以上、本来なら総務部配下になるところでテオドールの部下になるはずだが、ビルフランはそれをさせなかった。かといっていくら社長でもペリーヌを勝手に秘書にするわけにも行かない。つまりここで考えられるのは、ペリーヌは既にビルフランの会社の社員ではなくなっていたと言うことだ。彼女は形式上は一度解雇され、ビルフラン個人に雇用される形となったのだろう。彼女の立場は、今後物語に登場するセバスチャンなど屋敷の召使いと同じ立場だと言うことだ(もちろん、ビルフランの中では召使いより扱いは上だが)。
 その上で、ビルフランが「社長権限」でペリーヌの工場への出入り、工場内で自由に歩く権利を与えていると考えられる。そして「社長の個人秘書」と言う立場で「主にビルフランの個人に関わる仕事」をする傍ら、「必要に応じて会社の仕事もする」という契約なのだろう。
 ペリーヌがビルフランの会社ではなく、完全なビルフランの個人秘書…実はそう考えないとペリーヌの立場が説明出来なくなる設定がいくつか出てきてしまう。今後は研究欄においては、この解釈で話を進めたいと思う。

第38話「すてきなワンピース」
名台詞 「そっか、あんたにはそういう事情があったんだっけね…。でもね、オーレリィ。事情はわかるけど、やっぱり秘書なんだからスッキリとした若々しい服を選んだ方が私は良いと思うわ。大丈夫よ、私があなたにピッタリなのを見つけてあげるから。」
(ロザリー)
名台詞度
★★★★
 ペリーヌはビルフランの命により、村一番の高級な洋服屋に服を買いに来た。もちろん一人では心細いのでロザリーに付き合ってもらってだ。服を選ぶ際にペリーヌは、黒い服を希望する。ロザリーがその訳を聞くと「お母さんが亡くなってから2ヶ月しか経っていないから、あんまり派手な服を着る気にはなれないの」と正直に語る。そんな気持ちのペリーヌに、ロザリーは優しく、そして力強くこう語りかけるのだ。
 この台詞はロザリーの親友としての地位を確固たるものにしたと言って良いだろう。ロザリーはペリーヌになぜ服が必要なのか、どんな服が必要なのかと言うことをペリーヌ本人より的確に理解していたに違いない。もちろんその答えは「今の手持ちの服では秘書という仕事に相応しくないから早急に買い換えねばならない」のであり、「社長秘書に相応しい服が絶対条件」ということだ。だからペリーヌが母を喪ったばかりで喪服のような服が良いと希望しても、それでは行けないとちゃんと理解している。さらに会社の金で服を買う以上、そのような個人の我が儘を入れるわけに行かないという「もうひとつの事情」をも理解していたことになる。
 だがペリーヌ(オーレリィ)の母を喪った悲しみを踏みにじってまで、本来必要な服を無理に押しつける訳にもいかない。だからロザリーは、ペリーヌの気持ちを察しつつ現実を理解させるため、このような言葉を選んだという台詞なのだ。その台詞の内容も年相応の背伸びしない内容で、とても好感が持てる。
 もちろんペリーヌはこの言葉に理解を示し、自分にとって必要な服が何であるかを瞬時に理解する。ペリーヌとロザリーの名コンビぶりがここでは上手く示されたと言って良いだろう。
 そして、この台詞に続いてロザリーは現在のペリーヌの心境と現実の双方に対応した、それこそ「すてきなワンピース」を発見するのだ。
名場面 ファブリ来訪 名場面度
★★★
 ペリーヌが秘書として初出社し、ビルフランにこの日の予定を告げられると新聞を予習しながら待機との命が出る。秘書室で新聞を読むペリーヌの前に、またも秘書室にファブリが現れる。
 「やぁ、別に用はないんだよ。君がすてきな服を着て、見違えるようにきれいになったって、みんなが話しているんで見に来たんだ」と優しく声を掛けるファブリに、「恥ずかしいわ」と照れるペリーヌ。「ちょっと立ってみてくれないかな?」とファブリが声を掛けると、ペリーヌはすぐに立ち上がってファブリに新しい服を見せる。「なるほど、噂は本当だ」と思わず声が出るファブルに、「こんなつまらない用で寄ったんですか?」とペリーヌが答える。「僕にとってはつまらないことではないさ、良かったら今日お昼を一緒に食べよう」とファブリがカッコ良く決めると、「ロザリーも一緒に」とペリーヌが返答。そしてファブリはゆっくりと部屋を出て行く。一人になったペリーヌは、自分の服を見つめ直して「自信…付いたわ」と呟く。
 ここはペリーヌが着てきた服が、最初に褒められるシーンである。その褒め役にファブリを選んだのがこれまた心憎い演出だ。ファブリは今回は特にキザな言葉を選んでいる、というか少女の心を上手く掴むような言葉を選んできている。誰がファブリにこの台詞を言わせたんだと思う人は多いだろう。視聴者がこういう言葉でペリーヌを誘惑したら面白いだろうな、と思った通りにファブリが演じてくれるのだ。
 「こんなつまらない用で寄ったんですか?」とペリーヌが行った時は、多くの視聴者が同じ風に思っただろう。私は「お前ら仕事しろ」と突っ込みたくなったが。でもそんな用で寄るからこそファブリはペリーヌ物語一の「いい男」だし、「当たり役」だと思うのだ。そんなファブリの「おいしいシーン」としてとても印象に残っている。
 また、ビルフランにペリーヌの服について説明したのが、彼であることもこのシーンを見た後にその後の展開を見れば簡単に理解出来るだろう。
  
今回の
迷犬バロン
 
 ペリーヌ同様、バロンも急激な住環境の変化に眠れない夜を過ごす。まぁ小屋で放し飼いから上等の下宿での犬小屋生活に変化だ、飼い主が賢いと飼われている犬は大変だ。
気まぐれ度
★★
感想  今回描かれた物語は、前話の大抜擢に続いて「生活環境の変化」が主軸である。この大抜擢とそれに伴う変化で1話ずつ割いたのはとても良い、この部分は物語の本筋が停滞することになっても「サクセスストーリー」を盛り上げるためには非常に重要な点だからだ。
 物語は「新しい服を買いに行く」「小屋との別れ」「ビルフランに夜遊び疑惑を掛けられる」という3つの展開が同時進行する。しかもどの展開も独立してなくて、互いに影響し合っているという複雑な展開だ。それだけではない、今話はそれぞれの登場人物にしっかりと「出てきた理由」があるのもポイントだ。例外は冒頭のポールだけだ、こう言うときでも「出てくるだけ」だからたまに描き忘れられるんだ。
 例えばフランソワーズは「ビルフランの秘書」という立場がどれだけのものか説明する役だし、セザールがペリーヌの出世を喜ぶことでそれがどれだけのものか示唆する役割がある。ラシューズ夫人やその部下の役割は「ペリーヌのロザリーが場違いのところで買い物している」という事を上手くあぶり出す役だ。ロザリーはペリーヌの親友としての座を確保した上で、「こういうときに頼れる友」という役を徹底的に演じる。ファブリはカッコ良くペリーヌを持ち上げる役回りで、タルエルはチクリ魔という「それぞれの役」が明確になっている。そして主人公ペリーヌと、マロクール編でのもう一人の主人公ビルフランを振り回すのだ。
 またビルフランがペリーヌの服について語るときもこれまた良い。ビルフランは「服のセンス」だけでなく金遣いなどもチェックしていたことが最後に上手く描かれる。13歳の少女が「金は出すから好きな服を買って良い」と言われて高級店へ行けば、そこで舞い上がって高い服を選んでしまうかも知れない。だがペリーヌが人格的に、そのような状況に放り込まれてブレーキが掛けられるかどうかのテストもあったのだろう。結果は元来質素であったペリーヌの生活を知っている視聴者から見れば驚くことではないか、ビルフランから見ればそうではないのだ。おそらくこれがロザリーだったら、もっときれいな服を買ってビルフランに窘められただろう。
 ペリーヌの環境変化に重点を置き、特に何も起きない平和な話は前話と今話だけ。いよいよ次話ではペリーヌが最初の壁にぶつかる。
研究 ・ 
 

第39話「インドから来た手紙」
名台詞 「わしは息子の帰る日を未だに待ち続けている。歳も取ったし、この通り目も不自由だ。わしは今すぐにでも、工場を信頼して任せられる人間が欲しいんだ。だが、あの女は息子を離そうともしない。それはあの女が引き止めているからだ…浅ましい女め。」
(ビルフラン)
名台詞度
★★★★★
 名場面欄シーンの最後、ビルフランはこの台詞で失意のペリーヌにとどめを刺す。
 この台詞で、その前に語られたビルフランの「本心」については解説不要になったと言って良い。つまり驚くほど見事に、ビルフランの本心…恨む対象はマリだけであり、エドモンは別という思いを視聴者とペリーヌに伝えているのだ。
 そしてこれに、最後の一言「浅ましい女め」が上手く彩りを添えている。この添えられた一言は、ビルフランの「怒りの火」がどれほど強いかを見事に再現している。これほど良くできた台詞は「ペリーヌ物語」では始めて見たし、「世界名作劇場」シリーズでもなかなかお目にかかれない。
 さらにこの台詞でペリーヌに追い詰められる要素として、マリの娘の事には一切触れられていない。これはマリの子供を許しているのではない、存在自体が無いことを前提にしているのだ。だからこそビルフランは目の前の少女がマリの娘であり、自分の孫である可能性は微塵も考えない。ついでに言うとマリに子供がいたとしても自分の孫だと思わないだろう。
 この台詞でペリーヌは徹底的に打ちのめされる。そしてこのサクセスストーリーは、ペリーヌの社会的地位はそのままに一度リセットされる。そのリセットを宣告したのがこの台詞だ。
名場面 インドからの手紙を読み上げる 名場面度
★★★★★
 ペリーヌはテオドールやタルエルの妨害に遭いながらも、なんとか手紙の要点をまとめてビルフランにその内容を報告する。その際、ビルフランは二人の妨害があったことを見抜きペリーヌを驚かせる。
 その上で手紙の内容は、これまで調べが付いていたエドモンのその後の消息に付いてであったが、その内容は断片的で肝心なことがなにひとつ書かれていないと知り、ビルフランは落胆する。さらにペリーヌは「手紙にはエドモン様の奥様について詳しく書いてあります」として、自分の母について書いてある部分を読み上げる。だがビルフランは厳しい声でそれを遮り、「わしはその女を息子の嫁とは思っておらん」とと言い切る。驚いて一瞬固まったペリーヌだが、すぐ気を取り直して「でもエドモン様は…ちゃんと教会で結婚式を挙げられています」と反論するが「インドでの結婚式はフランスでは問題にならん。あの結婚はしなかったも同然だ」と返させる。ペリーヌは思わず立ち上がり、「それでは、お二人の間に生まれたお子さんはどうなってしまうのでしょう?」と思わず自分の事を聞いてしまう。その声はもう絶叫に近かったが、ビルフランはそんなペリーヌの変化に気付かず「ま、できてしまったのだから金ぐらいは出してやるさ」と静かに答える。そのビルフランの愛情の欠片もない返答に、ペリーヌは目に涙を浮かべて固まる。そして名台詞欄の台詞となる。
 ここまで順調にサクセスストーリーを紡いできたペリーヌが、遂に大きな壁にぶち当たる。それは仕事上のことではなく、「ビルフランの気持ち」の問題だ。やはりビルフランはマリを恨み続け、孫の存在には興味すら無かったのだ。いや、孫の存在はマリの血を引いているという事で恨みの対象でもあっただろう。それを聞いて必死のペリーヌと、あくまでも冷徹なビルフラン。この対比でもってペリーヌがこの時点での「ビルフランの本心」を知る瞬間が、劇的にとても印象深く描かれる。
 特にビルフランがマリの悪口を行った後、ペリーヌが思わず自分の事を問うてしまうのがリアルだと思う。この段に及んでペリーヌが最も不安に感じたこと、つまり「この人は自分(の正体)をどう思っているのか」ということが真っ先に頭に浮かんだに違いない。それだけでなく、母が否定されれば自分が否定されるのが怖かったのだけど、一縷の望みを賭けてみたという思いが混じっていたのだろう。結果はペリーヌにさらに辛い言葉を浴びせかけられることになる。
 特にビルフランの心境が「母の言う通りだった」と知る場面が、ロザリーやファブリ経由で話を聞くのでなく、ペリーヌとビルフランの1対1の場面で描かれたのは秀逸と言わざるを得ない。二人きりの密室でペリーヌは本人の口から、自分や母に対する「恨み」を耳にすることで「その瞬間」が大いに盛り上がり、ペリーヌとビルフランの物語がリセットされたことが否応なしに伝わってくる。
 ここでペリーヌは失意のどん底に落とされる。幸運にも恵まれ、何とかビルフランのそばまで上り詰めて絶対的な信頼を勝ち得ようと努力していたが、それが全て台無しになったような気がしていたことだろう。ペリーヌは「ビルフランの信頼など得られないのではないか」と感じてしまったはずだ。
 だがここにもペリーヌに追い風は吹いている。ビルフランの目が不自由なこと、それによってビルフランが「オーレリィ」の正体に全く気付いていないこと、この2点が追い風になっていることなどは、視聴者も含めて後になって解ることだ。
  
今回の
迷犬
バロン

 そうか、バロンはこの下宿では人気者だったのか…。バロンも主人公同様にサクセスストーリーを演じて、犬小屋まで与えられるようになった。
気まぐれ度
★★
感想  今話も「暗転」を描く物語だが、15話でマリが倒れるという「暗転」を描いたときは最後の最後まで「平和な日々」で引っ張ってから暗転させた。でも今回は違う、中盤からじわじわと盛り上げるという手法で「暗転」を描いた。最初はバロンの犬小屋建設で始まり、いつも通り仕事をこなすペリーヌが描かれ…その中に突然問題の手紙が割り込んでくるという手法だ。
 もちろん、最初はその手紙の内容は想像も付かないので「手紙の内容」について、ペリーヌの幼少時代の回想を入れることで先回りして内容を示唆することも忘れない。同時にその部分では手紙の内容が「エドモンの死」まで踏み込んでいない事もペリーヌの反応から理解出来るように作ってある。そこで妨害にやってくるテオドールとタルエル、その「情報」が後継者争いにとって重要な事も上手く示唆される。その中で「オーレリィ」という「小娘」を騙すことについてもテオドールよりタルエルの方が1枚も2枚も上手で、タルエルの方が賢くて世渡りが上手いよう描くこともちゃんと忘れていないのは感心だ。
 そして満を持して名場面欄シーンへと流れ、名台詞欄でとどめとなる。ビルフランがマリへの恨みを心に秘めている事が明確になり、ペリーヌがこれに打ちのめされてこのサクセスストーリーは一度リセットさせる。だが「ペリーヌがビルフランの秘書」という地位と、ロザリーやファブリの絶対的な信用という点はそのままだ。ここから失意のペリーヌがどのように這い上がるかが、次回の見どころとなる。
 しかし、物語をずっと見てきた人にはビルフランの思い(名台詞欄参照)が思い込みであることは十分理解出来るだろう。そのために、多くの視聴者はペリーヌに感情移入して見る事になる。視聴者から見てもここまでのペリーヌの出世、そしてビルフランへの接近が順調すぎたために出鼻をくじかれた形だろう。ペリーヌに同情し、ファブリ以上にペリーヌを慰めてやりたいと思うところだろう。
 そのビルフランの名台詞欄シーン等で、マリへの「恨み」を演じた巖金四郎さんの演技は本当に凄いと思う。普通の人ならもし26話以前の展開を知っていたら、あるいは見ていたらあの名台詞欄ーにはあそこまでの思いは込められなかったと思う。多分ビルフランになりきるために見てないんじゃないかと思うけど…本人が故人である以上は、もうそれを確かめる術もないのか。
研究 ・ 
 う〜ん、今話では私のビルフランの会社組織の推論が少し外れていることが解ったなぁ。
 もし私の推論通りなら、今回ビルフランがタルエルに問い詰めた「第四工場の機械の故障」の原因究明は、タルエル(製造管理)ではなくファブリ(技術・開発)の仕事だと思うんだけどなぁ。
 まぁ、あそこで優秀なファブリが出てきたら、ビルフランが甘い仕事で済まそうとする者を叱るシーンが無くなるわけだからやむを得ないか。

第40話「バロンの災難」
名台詞 「バカバカしい、テオドールさんはビルフラン様の本当の甥だよ。だけどオーレリィは別段、ビルフラン様の親戚という訳じゃ……あっ………まさか…。」
(ファブリ)
名台詞度
★★★★
 夜の「シャモニー」にいつもくるはずの「オーレリィ」が来ないと、ファブリとロザリーが語り合う。その中でロザリーが「工場で聞いた噂」として、「オーレリィ」がテオドールに嫌がらせを受けているという話を聞いたことを語る。それに対し、ファブリは返した台詞がこれだ。
 そう、ここでファブリが知っている「何か」がひとつに繋がったと言って良いだろう。彼は気付いていたはずだ、ペリーヌのビルフランの前での嬉しそうな態度とビルフランに対する従順さを。さらにペリーヌがビルフランに「秘書と社長」以上の態度で接していること。そしてビルフランが「オーレリィ」を気に入り、自分の専用秘書にまでしてしまった理由がその点であることもビルフラン本人から聞いている可能性が高い。
 ファブリはペリーヌが「親戚を訪ねてきた」ことは知っている、だがペリーヌの母がその親戚に恨まれているから名乗り出られないことも知っている。だが彼が知らない点であり、彼にとって一番の謎は「なぜオーレリィという偽名まで使い、親戚が誰かを隠すのか?」という一点だ。その答えがこの台詞の途中で出てしまった、ペリーヌが訪ねてきた「親戚」はビルフランに違いない。村最大の有力者だからこそ、名乗り出られない以上は名前を隠し、誰にも自分の正体を語れないのだと。その「気付いてしまった」「自分で答えを出してしまった」というファブリの慌てぶりが上手く再現されている。
 だがファブリはその回答を必死に打ち消そうとする。ロザリーには「テオドールがオーレリィをいじめるのは下らない噂」と告げ、飲み物を頼まれたロザリーが席を外すと「バカバカしい、そんなことはあり得ないな。僕もどうかしているよ、全く」と独り言を言って回答を打ち消す。だが帰り道でペリーヌと二人になると、「心配事があるなら僕に打ち明けてくれ」「僕はいつでも君の見方だよ」とペリーヌに迫っている。いつも落ち着いているファブリでも、この重い秘密の一端を握ってしまったという驚きと戸惑いを隠せず、混乱しているのだ。
名場面 夕陽を眺めるペリーヌ 名場面度
★★
 前話の名場面欄シーンを受けて、ペリーヌは失意のどん底に落とされる。ビルフランから帰宅指示が出ると、工場の門前で飼い主の帰りを待っていた忠犬バロンを従えて夕陽を眺める。「お母さん、私はどうすればいいの?」と呟くと、21話のマリ臨終時の回想シーンで流される。
 ここは失意のペリーヌに対する「回答」だ。祖父に母が恨まれていて、自分はその存在についてすら関心を持たれていない事実。ここからどうやって祖父の愛情を受け取るというゴールへ向かうか、その回答が本作の前半でさんざん演じられてきたことが示唆される。母が最期に言い残した「人に愛されるためには、自分が人を愛さねばならない」、もちろんペリーヌはこの言葉に従って祖父に接してきたが今はあまりのショックで折れてしまいそうだ。だがははももう一つ母は言葉を残している。「お母さんはあなたを素直で正直な子供に育てたつもりよ。おじい様も最初はあなたに冷たく当たるかも知れないけれど、そのうちきっと、あなたが素直で正直な子だと解って、好きになってくれます」という言葉だ。
 視聴者は誰もが「それだ!」と思うところだろう、ペリーヌが自分の道を進めばいつかは祖父も解ってくれる。だから何度でも当たって砕けるしかない。ペリーヌからビルフランへの「愛」が通じれば、名乗り出る日がやってくるはずだと。ペリーヌがそう解釈したか、このシーンでは敢えて答えを出していない。
 だがそれは口で言うのは簡単だけどとても難しいことだ。ペリーヌにはそれでも何事もなかったかのようにビルフランに接し、とにかく全力でビルフランを愛するしかないわけだ。そのペリーヌの「闘い」の幕開けはここだろう。ここでペリーヌがあっさり答えを見つけたように描くよりも、どう進めば良いか解らないというように描いたのは正解なのだ。ペリーヌはこの失意から明確に立ち上がりを見せないまま次なる「事件」が起きてそれどころでは無くなるここではそう描くのが最も正しいように思えた。
 
今回の
迷犬バロン
  
 バロン、撃たれる。しかもテオドールなんかに…。だがこの「事件」のおかげでペリーヌは悩んでいるどころでなくなる。傷は大きかったが、その意味では身体を張った甲斐があるってもんだ。
気まぐれ度
★★★★★
感想  今話は珍しく「前話を引きずった」状態で始まる。前話の名場面欄を受けて失意で涙に暮れるペリーヌから物語が始まるのだ。そして前話の名台詞欄のビルフランに心の中の呟きで反論し、ビルフランに呼ばれれば健気に涙を拭いてビルフランの前に立つペリーヌ。だけど泣き続けたことによって声が変わっていることは隠せず、「風邪だ」と誤魔化して帰宅する。
 そこでまっすぐ帰らず、つい夕陽を見てしまうのは同じような状況に置かれれば誰だって同じだろう。21話の回想シーンでペリーヌがどう出るべきが回答が出るのは、名場面欄で語った通り。
 その裏では「シャモニー」でもロザリーとファブリの会話だ(名台詞欄参照)。ここでファブリはペリーヌの正体について回答を出し、ペリーヌの力になることがビルフランのためであり会社のためでもあることを理解しただろう。もしペリーヌが財産目当てでやってきたなら、そんなことで悩まず名乗り出るだけ名乗り出るのは確かだろうからだ。だけどファブリについては、ペリーヌ以上にどうすればいいか答えが出ていないはず。だから自分が「聞き役」に徹するしかないということも、十分理解している事だろう。
 後の展開は、身体を張ったバロンには申し訳ないが本筋から外れていることである。だが役割としては落ち込んでいるペリーヌを「それどころでない」状況に追い込んで、劇中での週明けまでに元のペリーヌに戻すという重要なものだ。なぜならペリーヌが落ち込みっぱなしでは劇中での平日の物語が進まなくなってしまうからである。同時にペリーヌが、後継者争いにしのぎを削るタルエルとテオドールの企みを聞いてしまうという展開もあるが、それこそ後の展開に響かないのでどうでも良いことだ。この後も二人は手を組むことなどせず、ここで交わされた密約を忘れたかのように後継者争いを続けるからだ。でもひとつ解った事は、テオドールがタルエルの力がないと前に進めないという事実だけは確かだと言うことだ。
研究 ・ 
 う〜ん、今度はタルエルが「オーレリィを工場から叩き出す」と宣言している。前々話研究欄の推測が当たろうが外れようが、それは不可能なのに…。もちろん推測が外れでペリーヌが社員だとすれば、「秘書」は総務部付きのはずだからテオドールの配下になるはずだぞ。
 タルエルは未だ「オーレリィ」が自分の部下だと勘違いしているようだ。この男も大したことないな。

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